労働判例 大阪の弁護士に相談         相談料初回無料 大阪の弁護士。気軽に相談して下さい。
 考え方・方針


解雇・残業代請求なら大阪の弁護士|若林・新井総合法律事務所判例研究日本マクドナルド割増賃金請求事件




日本マクドナルド割増賃金請求事件 東京地裁判決 H20.1.28
出典 裁判所HP,判タ1262号221頁


 
 大手ハンバーガー販売店の店長の管理監督者性を否定して,残業代の請求を認容した事例。

 



主文
 1 原告の訴えのうち,原告が,被告に対し,被告の直営店店長としての地位にある間,l労働基準法36条の規定による労使協定の締結及び同協定の所轄労働基準監督署長への届出がなされ,同協定内容が周知され,かつ,l同協定が定める事由及び限度時間の範囲でなければ,1日8時間,1週40時間を超えて労働する労働契約上の義務を負っていないことの確認を求める訴えを却下する。
 2 被告は,原告に対し,503万4985円及び別紙時間外及び休日割増賃金一覧表「各月合計」欄記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日の翌月から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
 3 被告は,原告に対し,251万7493円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 4 原告のその余の請求を棄却する。
 5 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
 6 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
理由
第1 請求(略)
第2 事案の概要
 本件は,被告の従業員である原告が,被告に対し,①原告が,労働契約上,労働基準法36条に規定する労使協定が締結されるなどするまで,法定労働時間(同法32条)を超えて労働する義務を負っていないことの確認(請求の趣旨第1項),②未払の時間外割増賃金及び休日割増賃金の支払(同第2項),③この未払賃金に係る付加金の支払(同第3項),④被告から長時間労働を強いられたことにより,精神的苦痛を被ったとして,不法行為に基づく,慰謝料の支払(同第4項),⑤通勤に要した高速道路料金の支払(同第5項)をそれぞれ求めた事案である。
 1 前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠により容易に認められる事実)
  (1) 被告は,全国に展開する直営店等で自社ブランドのハンバーガー等の飲食物を販売することなどを目的とする株式会社であり,平成17年12月31日現在の店舗数は3802店(そのうち直営店は2785店)である。
  (2) 被告の営業ラインのランク付けは,概要,①マネージャートレーニー(入社時からセカンドアシスタントマネージャーに昇格するまでの身分),②セカンドアシスタントマネージャー,③ファーストアシスタントマネージャー,④店長,⑤オペレーションコンサルタント(以下「OC」という。OCは,10店舗程度を担当し,その担当区域をOCエリアという),⑥オペレーションマネージャー(以下「OM」という。OMは,6か所程度のOCエリアを統括し,その担当区域をOMエリアという),⑦営業部長,⑧営業推進本部長(代表取締役の兼務)からなる。(乙34)
 このうち,店舗の業務には,店長,ファーストアシスタントマネージャー,セカンドアシスタントマネージャー(以下,ファーストアシスタントマネージャーと併せて「アシスタントマネージャー」ということもある)及びマネージャートレーニーが従事し,そのほかにアルバイト従業員であるクルーとスウィングマネージャーが勤務している(被告では,店舗の各営業時間帯に商品の製造,販売を総指揮する者をシフトマネージャーと呼び,各営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置く必要があるとされているが,これを務めることができるクルーをスウィングマネージャーと呼んでいる。また,スウィングマネージャー以外では,店長,アシスタントマネージャー等がシフトマネージャーを務めることができる)。
 平成19年9月末日現在の被告の従業員数は,店長より上位の社員が合計277名,店長が合計1715人,アシスタントマネージャー及びマネージャートレーニーが合計2555人,スウィングマネージャーが合計1万9870人,クルーが合計10万1152人である。(乙44)
  (3) 原告は,昭和62年2月,被告に社員として採用されると(マネージャートレーニー),同年7月にセカンドアシスタントマネージャーに,平成2年11月にファーストアシスタントマネージャーに,平成11年10月に店長(伊奈町店)にそれぞれ昇格した。
 その後,本庄エッソSS店,東松山丸広店等の店長を経て,平成15年2月から高坂駅前店(店長がいないサテライト店1店の担当も兼務),平成17年2月から125熊谷店の店長を務めている。
  (4) 被告の就業規則には,以下のような定めがある。
                記
 第11条(労働時間,休憩時間)
  1 店舗マネージャー・営業スタッフ
   ① 所定労働時間は1ヶ月(毎日1日を起算日とする)を平均して1週間平均40時間以内とする。
 第12条(遅刻ならびに早退の手続き)
  遅刻並びに早退の手続きについては次の通り定める。
   ① 始業時刻に遅れるときは事前に速やかに会社へ報告しなければならない。また始業時刻に遅れたときは,事後速やかに届けなければならない。
   ② 病気その他やむを得ない理由のため早退しようとする場合は,所属長の承認を得なければならない。
 第13条(休日)
  休日は次の通り定める。
  1 店舗マネージャー・営業スタッフ
   ① 年間休日119日を各月10日間(但し2月は9日間)に分割して与える。
   ② その他会社が特に定めた日。
 第14条(時間外,休日)
  業務の都合により所属長の指示する時間外勤務又は休日勤務に関しては,別に定める給与規定により割増手当を支給する。
 第15条(深夜勤務)
  業務の都合により所属長の指示する深夜勤務に関しては,別に定める給与規定により割増手当を支給する。また,管理及び監督の地位にある者,およびオフィススタッフのチーフ,コンサルタントに関しては職務基準給に14,000円の深夜勤務等手当を含むものとする。
 第16条(適用の除外)
  第11条から第14条までの規定は,次の者に対しては適用しない。
   ① 管理又は監督の地位にある者
  パートの処遇,採用,解雇の可否,昇給の決裁権限を有する店長,営業スタッフ,会社の重要な戦略,戦術を決定する等,および部長不在時にその職務等を代理決裁するマネージャー職以上の者
 第20条(給与規定)
  社員の給与及び賞与については,別に定める給与規定による。
 (甲1)
  (5)被告の給与規定には,以下のような定めがある。
               記
 第2条(給与の構成)
  給与の構成は次の通りとする。
   ① 基準内給与
  (ア) 基準給(職務基準給,住宅手当,評価手当)
  (イ) 住宅手当
   ② 基準外給与(通勤手当,深夜勤務割増手当,時間外勤務割増手当,休日勤務割増手当)
 第3条(基準内給与)
  基準給および職務基準給は学歴,経験,能力及び年齢等を総合評価して決定する。尚,基準内給与については,給与計算期間中の欠勤,遅刻,早退等による控除を行わない。
 第4条(評価手当)
  評価手当は,オフィスのチーフ及びコンサルタント,管理及び監督の地位にある者に対し,人事考課に応じ別途定める方法にて支給する。
 第5条(住宅手当)
  住宅手当は,基準給の10%を支給する。
 第6条(通勤手当)
  1 通常の交通機関を利用して通勤する場合には,その通勤費の実費を支給する。
  2 自家用車を利用して通勤する場合は,別に定める車輛管理規定による手続きを経た者に限り,同規定によりその通勤費を支給する。
 第7条(深夜勤務割増手当)
  深夜勤務(22:00~5:00)を命じた場合は,基準内給与の時間割給の25%に相当する額に深夜労働時間数を乗じた深夜勤務割増手当を支給する。尚,基準内給与の時間割給は次の算式による。
   基準内給与の時間割給=基準内給与/164時間
   (164時間とは1ヶ月の平均所定労働時間である)
 第8条(時間外勤務割増手当)
  1 業務の都合により所定労働時間外勤務を命じた場合は,基準内給与の時間割給とその25%に相当する額の合計額に,所定労働時間外労働時間数を乗じた時間外勤務割増手当を支給する。
  2 時間外勤務を命じた場合で,深夜(22:00~5:00)に及ぶ時間については,前項の時間外勤務割増手当の他に,基準内給与の時間割給の25%に相当する額に深夜労働時間数を乗じた深夜勤務割増手当を支給する。尚,時間割給の算式は第7条に準じる。
 第9条(休日勤務割増手当)
  1 業務の都合により休日勤務を命じた場合は,基準内給与の時間割給とその25%(但し,法定休日に勤務した場合は35%)に相当する額との合計額に休日労働時間数を乗じた休日勤務割増手当を支給する。
  2 休日勤務が深夜に及ぶ場合は,前項の休日勤務割増手当の他に基準内給与の時間割給の25%に相当する額に,深夜労働時間数を乗じた深夜勤務割増手当を支給する。尚,時間割給の算式は第7条に準じる。
 第10条(計算期間及び支給日)
  給与の計算期間は,当月1日より当月末日迄とし,当月25日に予め本人より指定された本人名義の口座へ振込にて支給する。但し,25日が土曜日,日曜日または国の祝祭日にあたるときは,その前日に支給する。
 (甲1)
  (6) 被告の車両管理規定には,以下のような定めがある。
 第1条(原則)
  本規定は,業務利用車を使用する場合の取り扱いについて必要な事項を定める。業務利用車とは会社が所有する車輛(以下「社有車」という)及び社員等が所有する車輛(自動二輪車,原付自転車を含む,以下「私有車」という)を業務の用に供するために使用する場合をいう。
 第17条(私有車の業務利用届)
  1 社員・準社員の私有車業務利用届に関しては,私有車を業務上(通勤を含む)使用する場合,またはその可能性を多少とも有する場合は,所属長の承認を得て,私有車の業務利用届を社員・準社員は総務部に提出して当該車輛を会社に登録しなければならない。
 第21条(ガソリン代等の支給)
  私有車を業務に使用した場合は,次の通りガソリン代等を支給する。
  1 通勤に使用する場合は,下記計算方法により算出した金額を,毎月給与と同時に支給する。
  往復距離×25(円)×21(日)
  5 有料道路料金及び駐車場料金もその実費を支給するが,領収書を添付しなければならない。
 第22条(登録済み私有車の使用手続)
  1 登録済私有車を業務に使用する場合は,所属長に原則として許可を得なければならない。
  2 所属長は,次の各項目を検討の上,その許可を与えるものとする。
   ① 私有車を使用することの妥当性,緊急性
 (甲1)
 2 争点
  (1) 原告が,労働契約上,労働基準法36条に規定する労使協定が締結されるなどするまで,法定労働時間を超えて労働する義務を負っていないことの確認を求める訴え(請求の趣旨第1項)に確認の利益があるか。
  (2) 店長である原告は,労働基準法41条2号の「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者(以下「管理監督者」という)」に当たるか。
  (3) 仮に,争点(2)が否定された場合,原告に支払われるべき時間外割増賃金及び休日割増賃金の金額はいくらか。
  (4) 時間外割増賃金及び休日割増賃金に係る付加金の要否及びその額
  (5) 原告の勤務状況に関する被告の不法行為の成否及びその損害額
  (6) 原告が通勤に使用した高速道路料金に関する被告の支払義務の有無
第2 争点に対する当事者の主張(略)
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)(原告は,労働契約上,労働基準法36条に規定する労使協定が締結されるなどするまで,法定労働時間を超えて労働する義務を負っていないことの確認を求める訴え(請求の趣旨第1項)に確認の利益があるか)について
  前記第2,1記載の本件争点に対する原告の主張にかんがみると,この訴えは,要するに,店長である原告には,労働基準法の労働時間の規定が適用されることの確認を求めるという趣旨であると解されるが(36協定の締結や届出がされた場合,就業規則に当該協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは,当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り,労働者は労働契約に定める労働時間を超えて労働する義務を負うが,同協定の締結や届出により,直ちに個々の労働者に対し協定上定められた時間外労働が義務づけられるものではない),原告は,本件訴訟において,これを前提に(具体的には原告が管理監督者に当たらないことを主張して)時間外割増賃金を請求している以上,これに加えて,上記の確認を求める法的な利益はないというべきである。
 この点,原告は,被告に労働基準法を遵守させ,本件紛争を直接かつ抜本的に解決するためには,この訴えに係る権利関係の確認が不可欠であると主張するが,原告が確認を求めている権利関係は,時間外割増賃金の支払義務の存否を決定する指標にとどまり,被告における原告のその余の待遇上の問題を広く解決するようなものではないから,原告が,時間外割増賃金の請求に加え,当該権利関係の確認を求める正当な理由はないというべきである。
 したがって,この訴えには,確認の利益は認められない。
 2 争点(2)(店長である原告は,管理監督者に当たるか)について
  (1) 使用者は,労働者に対し,原則として,1週40時間又は1日8時間を超えて労働させてはならず(労働基準法32条),労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分,8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を与えなければならないし(同法34条1項),毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないが(同法35条1項),労働基準法が規定するこれらの労働条件は,最低基準を定めたものであるから(同法1条2項),この規制の枠を超えて労働させる場合に同法所定の割増賃金を支払うべきことは,すべての労働者に共通する基本原則であるといえる。
 しかるに,管理監督者については,労働基準法の労働時間等に関する規定は適用されないが(同法41条2号),これは,管理監督者は,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され,また,賃金等の待遇やその勤務態様において,他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので,労働時間等に関する規定の適用を除外されても,上記の基本原則に反するような事態が避けられ,当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものであると解される。
 したがって,原告が管理監督者に当たるといえるためには,店長の名称だけでなく,実施的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず,具体的には,①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか,②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,③給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる。
 この点,被告は,管理監督者とは,使用者のために他の労働者を指揮監督する者又は他の労働者の労務管理を職務とする者をいい,その職務の内容が監督か管理の一方に分類できない者でも,労働時間の管理が困難で,職務の特質に適応した賃金が支払われていれば,管理監督者に当たると主張するが,当該労働者が他の労働者の労務管理を行うものであれば,経営者と一体的な立場にあるような者でなくても労働基準法の労働時間等の規定の適用が排除されるというのは,上記検討した基本原則に照らして相当でないといわざるを得ず,これを採用することはできない。
  (2) 以上を前提に店長である原告の管理監督者性について検討するに,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,被告の店長の権限,役割等については,次の事実が認められる(なお,以下の認定事実は,主として,本件で原告が時間外割増賃金等の請求対象としている平成15年12月から平成17年11月までの時期に関するものであり,店長の職務内容や労務管理の方法等に関しては,その後一部変更された部分もある)。
 ア 人事に関する事項
 (ア) 店長は,前年度の実績を基に作成した店舗の損益計画(後記第3,2(2)ウ(ア)記載のもの)を考慮しつつ,店舗のアルバイト従業員であるクルーを採用して,その時給額を決定したり,クルーのスウィングマネージャーへの昇格を決定する権限を有している(なお,平成17年ころ,原告が店長を務める店舗では,この昇格に際し,OCがスウィングマネージャー候補者の知識や技能を確認していたが(スウィングチェック),これは被告の当時の運用としては,スウィングマネージャーへの昇格のために不可欠の手続ではなかった)。
 また,店長は,クルーやスウィングマネージャーに対する人事考課を行い,その昇給を決定する権限も有している。
 (イ) 他方,社員の採用権限は店長にはなく,社員の昇格についても,一定の基準(店舗でのオンザジョブ・トレーニングや被告が設置するハンバーガー大学の受講の有無)を満たす社員を店長が推薦し,OCがこれを決済することで決定されている。
 また,店長は,店舗に勤務するアシスタントマネージャーについて,一次評価者として,その人事考課を行う権限を有しているが,当該アシスタントマネージャーの人事評価は,OCによる2次評価,店長,OC及び評価対象者による三者面談,OMエリアごとに各店長やOC,OMが出席して開催される評価会議を経て最終的に決定され,その過程で,店長の一時評価についてOCが訂正を指示することもあった。
 イ 各店舗の従業員の就業時間等に関する事項  (ア) 店長は,毎月,店舗従業員の勤務シフト表(社員とスウィングマネージャーのものと,クルーのもの)を作成して被告に提出し,この作成に併せて店長自身の勤務スケジュールを決定している。
 (イ) また,店長は,被告から送付された協定書の雛型に則り,被告を代表して,店舗従業員の代表者との間で,時間外労働等に関する協定を締結したり,就業規則の変更に関する店舗従業員の代表者の意見を受領し,労働基準監督署長に就業規則を変更した旨の届出をしたり,従業員代表との間で,賃金控除に関する協定書を締結する権限を有している。  ウ 各店舗の営業等に関する事項  (ア) 店長は,本社が店舗の前年度実績から作成した売上予想に基づき,次年度の店舗の売上予想や予算等を記載した損益計画を作成し,これを本社に提出する。なお,店長が作成した損益計画は,自ら定めた努力目標という位置付けであって,ノルマというものでなかった。
 また,店長は,毎月,その時点における店舗の実情に基づき,上記損益計画について月次の修正を行うことがあった。
 (イ) 店長は,店舗の支出のうち,フードアンドペーパーコスト(食材の仕入れ原価,食材を廃棄した分の費用など),クルーレバー(アルバイトの人件費),ユーティリティー(電気代,ガス代,水道代)に関し,決裁権限を有している。また,店舗の販売拡大のため,自店舗の商圏や競合データの収集,分析等を行う職責を負い,販売促進のため,20万円未満の範囲で,他社社員向け優待カードの発行,イベントの協賛,クーポンの配布,ポスターの掲示,金券の発行等の販売促進活動を実施する権限を有しているが,その実施に当たっては,予め本社に企画書を提出し,その承認を得る必要がある。
 (ウ) 店長は,形式的には,店舗の営業時間を変更する権限を有し,店長の判断により,開店時間を早めたり,閉店時間を延長するなどの営業時間の変更が行われた例もあった。
 しかし,平成17年1月に本社の営業時間延長プロジェクトチームから各店舗に「「営業時間についてのブランドイメージを再構築し,IEO市場における優位性を確立すること」は日本マクドナルドの重要な戦略であり,その第1段階として,同一時刻での”6:30amオープン”を決定しました」,「2005年2月1日(火)以降6:30am開店(物理的不可能な店舗は除きます)」と記載した通知がされたり,同年10月に被告の上記プロジェクトチームから各店舗に「深夜早朝IEOポテンシャルから更なるセールスを獲得するため,閉店時間の延長を実施致します。」,「”早朝から深夜まで営業しているマクドナルド”というイメージをお客様に浸透させていきます」,「2005年12月1日(木)以降 インストア23:00閉店 ドライブスルー0:00閉店(物理的不可能な店舗は除きます)」と記載した通知がされたように,本社から営業時間に関する方針が示されると,事実上,各店長は,これに従うことを余儀なくされていた。
 (エ) 以上のほか,店長は,店舗や商品の衛生管理,店舗の安全管理,店舗の金銭や原材料の管理,近隣の商店街との折衝等を行う職責を負っている。
 (オ) なお,店長がシフトマネージャーとして在店したり,商品の調理や販売に従事することは,店長の固有の業務とはされていなかったが,店舗の各営業時間帯には必ずシフトマネージャーが在店する必要があったため,他の従業員からシフトマネージャーが確保できない場合には,店長がシフトマネージャーとして店舗に勤務しなければならず,勤務するクルーの数が足りない場合には,自ら商品の調理や販売に従事する必要があった。
 エ 被告の会議等への参加
 (ア) 店長は,OMエリアやOCエリアごとに開催される店長会議に参加するが,これらの会議では,被告の営業方針,営業戦略,人事等に関する情報提供が行われるほか,店長から各店舗の成功事例の説明がされたり,互いの店舗経営について意見交換が行われることもある。
 (イ) そのほか,店長は,店長コンベンション(全国の店長が参加して年1回開催され,被告において導入される予定の新しいシステムの紹介や,被告の営業戦略等に関する情報提供などがされるもの)やキックオフミーティング(全国の店長が参加して年1回,通常は1月か2月に開催され,その年の全社的な戦略や目標のほか,店舗の営業のあり方(成功事例等)について,被告から情報提供されるもの)に参加する。
 オ 店長の労働時間の管理
 (ア) 被告は,出退社時刻・時間外勤務一覧表あるいはパーソナルコンピューター上の勤務表を用いて店舗従業員の労働時間を管理してきたが,上記出退社時刻・時間外勤務一覧表や勤務表には,店長も自身の出社時刻や退社時刻を記載,入力する運用がされていた。
 (イ) 店長は,前記第3,2(2)イ(ア)記載のとおり,自身でその勤務スケジュールを決定し,早退や遅刻をした場合に,OCへの届出や承認は必要とされていなかった(なお,就業規則では,従業員の遅刻及び早退に関する手続が規定されているが(同規則12条),この規定の店長への適用は明示的に排除されている(同規則16条))。
 カ 店長に対する処遇
 (ア) 平成16年4月に導入された被告の報酬制度によれば,管理監督者として扱われている店長には,管理監督者として扱われないファーストアシスタントマネージャー以下の従業員とは異なる勤務体系が適用されている。
 具体的には,①店長は,基準給(月額31万円)は固定されたうえで,それに加えて,S(店長全体の20パーセント),A(30パーセント),B(40パーセント),C(10パーセント)の4段階評価に基づく評価手当(S評価が10万円,A評価が6万,B評価が3万,C評価が0円)が支払われるが,ファーストアシスタントマネージャーは,基準給の最高給(28万円)と最低給(23万円)が定められ,その範囲内で定期昇給し,評価手当は支払われず,②店長の賞与は,上記の4段階の評価結果に基づき,在籍期間にかかわらず金額(半期の賞与として,S評価が125万円,A評価が107万5000円,B評価が95万円,C評価が85万円)が決定されるが,ファーストアシスタントマネージャーは,一定時点の基準給(月額)に業績評価と在籍期間に応じて決定される支給月数を乗じて算定される。
 以上を前提とした場合のS評価の店長の年額賃金(次項に記載するインセンティブは除く。以下同様)は779万2000円((基準給31万円+住宅手当3万1000円+評価手当10万円)×12+賞与125万円×2),A評価の店長の年額賃金は696万2000円((基準給31万円+住宅手当3万1000円+評価手当6万円)×12+賞与107万5000円×2),B評価の店長の年額賃金は635万2000円((基準給31万円+住宅手当3万1000円+評価手当3万円)×12+賞与95万円×2),C評価の店長の年額賃金は579万2000円((基準給31万円+住宅手当3万1000円)×12+賞与85万円×2)となる。
 (イ) また,被告は,従業員に対するインセンティブを設定し,平成16年には,売上に関する指標が一定レベルを上回った店舗の店長に対し,当該指標に応じて30万円から100万円を支給する内容のインセンティブプランが設けられた。また,平成17年にも一定の売上基準を満たした従業員(店長,アシスタントマネージャー等)に対するインセンティブプランが設定された。さらに,平成18年にも,四半期ごとの目標または年間目標を達成した店舗に一定額が支給され,これを店長等の従業員で分配するというインセンティブプランが設定された。
  (3) 以上の認定事実に基づき検討する。
 ア 店長の権限等について
 (ア) 店長は,アルバイト従業員であるクルーを採用して,その時給額を決定したり,スウィングマネージャーへの昇格を決定する権限や,クルーやスウィングマネージャーの人事考課を行い,その昇給を決定する権限を有しているが,将来,アシスタントマネージャーや店長に昇格していく社員を採用する権限はないし(クルーが被告に入社を申し込む場合に,店長が,当該クルーの履歴書にコメントを記載することはある(乙6)),アシスタントマネージャーに対する一時評価者として,その人事考課に関与するものの,その最終的な決定までには,OCによる二次評価のほか,上記の三者面談や評価会議が予定されているのであるから,店長は,被告における労務管理の一端を担っていることは否定できないものの,労務管理に関し,経営者と一体的立場にあったとはいい難い。
 (イ) 次に,店長は,店舗の運営に関しては,被告を代表して,店舗従業員の代表者との間で時間外労働等に関する協定を締結するなどの権限を有するほか,店舗従業員の勤務シフトの決定や,努力目標として位置づけられる次年度の損益計画の作成,販売促進活動の実施等について一定の裁量を有し,また,店舗の支出についても一定の事項に関する決裁権限を有している。
 しかしながら,本社がブランドイメージを構築するために打ち出した店舗の営業時間の設定には,事実上,これに従うことが余儀なくされるし,全国展開する飲食店という性質上,店舗で独自のメニューを開発したり,原材料の仕入れ先を自由に選定したり,商品の価格を設定するということは予定されていない(甲41,47)。
 また,店長は,店長会議や店長コンベンションなど被告で開催される各種会議に参加しているが,これらは,被告から企業全体の営業方針,営業戦略,人事等に関する情報提供が行われるほかは,店舗運営に関する意見交換が行われるというものであって,その場で被告の企業全体としての経営方針等の決定に店長が関与するというものではないし(証人),他に店長が被告の企業全体の経営方針等の決定過程に関与していると評価できるような事実も認められない。
 (ウ) 以上によれば,被告における店長は,店舗の責任者として,アルバイト従業員の採用やその育成,従業員の勤務シフトの決定,販売促進活動の企画,実施等に関する権限を行使し,被告の営業方針や営業戦略に即した店舗運営を遂行すべき立場にあるから,店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの,店長の職務,権限は店舗内の事項に限られるのであって,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてのやむを得ないものといえような重要な職務と権限を付与されているとは認められない。
 イ 店長の勤務態様について
 (ア) 店長は,店舗従業員の勤務シフトを決定する際,自身の勤務スケジュールも決定することとなるが,各店舗では,各営業時間帯に必ずシフトマネージャーを置くこととされているので,シフトマネージャーが確保できない営業時間帯には,店長が自らシフトマネージャーを務めることが必要となる。
 原告の場合,自らシフトマネージャーとして勤務するため,同年7月ころには30日以上,同年11月から平成17年1月にかけては60日以上の連続勤務を余儀なくされ,また,同年2月から5月ころにも早朝や深夜の営業時間帯のシフトマネージャーを多数回務めなければならなかった(甲4,原告本人)。その結果,後記第3,3(1)で認定するとおり,時間外労働が月100時間を超える場合があるなど,その労働時間は相当長時間に及んでいる。
 店長は,自らのスケジュールを決定する権限を有し,早退や遅刻に関して,上司であるOCの許可を得る必要はないなど,形式的には労働時間に裁量があるといえるものの,実際には,店長として固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要するうえ(原告や証人の試算では,月150時間程度となっている。甲44,50),上記のとおり,店舗の各営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置かなければならないという被告の勤務態勢上の必要性から,自らシフトマネージャーとして勤務することなどにより,法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀なくされるのであるから,かかる勤務実態からすると,労働時間に関する自由裁量があったとは認められない。
 (イ) この点,被告は,原告の労働時間が長時間に及んだのは,部下とのコミュニケーションが不足するなどして,シフトマネージャーを務めることができるスウィングマネージャーの育成ができなかったことが原因であるなどと主張する。
 しかしながら,店舗運営に必要な数のシフトマネージャーが確保できていない場合に,店長が自らシフトマネージャーとして勤務することで労働時間が長期化することは,原告に限ったことではなく,他の店長についても生じている現象である(乙35,証人)。原告の勤務状態が,上記の状況にまで及んだことについては,被告が指摘するとおり,スウィングマネージャーの育成に失敗したという側面があることは否定できないものの(証人),程度の差はあれ,これは,被告における店長が,他の従業員からシフトマネージャーを確保できなければ,自らシフトマネージャーとして勤務することでその不足を補うべき立場にいるという被告の勤務態勢上の事情から不可避的に生じるものであり,専ら原告個人の能力の不十分さに帰責するのは相当でない。
 なお,被告は,店長が特定の営業時間帯のシフトマネージャーを自店舗の従業員から確保できない場合には,自らシフトマネージャーを務めるという方法以外に,他店から一時的にスウィングマネージャーを借りるという方法もあると主張するが,原告の場合には,原告が要請しても,他店から円滑にスウィングマネージャーを借りることができていた状況にはなかったと認められるし(証人,原告本人),上記の原告の勤務状況からすると,原告が店長を務めていた店舗でのシフトマネージャーの不足の程度は,他店からスウィングマネージャーを一時的に借りることで改善される状況ではなかったといえる。
 (ウ) また,被告は,店長が行う労務管理,店舗の衛生管理,商圏の分析,近隣の商店街との折衝,店長会議等への参加等の職務は,労働時間の規制になじまないものであると主張する。
 しかしながら,前記第3,2(3)ア記載のとおり,店長は,被告の事業全体を経営者と一体的な立場で遂行するような立場にはなく,各種会議で被告から情報提供された営業方針,営業戦略や,被告から配布されたマニュアル(甲45)に基づき,店舗の責任者として,店舗従業員の労務管理や店舗運営を行う立場であるにとどまるから,かかる立場にある店長が行う上記職務は,特段,労働基準法が規定する労働時間等の規制になじまないような内容,性質であるとはいえない。
 ウ 店長に対する処遇について
 (ア) 証拠(乙60)及び弁論の全趣旨によれば,平成17年において,年間を通じて店長であった者の平均年収は707万184円(この額が前記第3,2(2)カ(イ)記載のインセンティブプランからの支給額を含むのであるか否かは不明であるが,一応含まないものとして検討する)で,年間を通じてファーストアシスタントマネージャーであった者の平均年収は590万5057円(時間外割増賃金を含む)であったと認められ,この金額からすると,管理監督者として扱われている店長と管理監督者として扱われていないファーストアシスタントマネージャーとの収入には,相応の差異が設けられているようにも見える。
 しかしながら,前記第3,2(2)カ(ア)で認定したとおり,S評価の店長の年額賃金は779万2000円(インセンティブを除く。以下同様),A評価の店長の年額賃金は696万2000円,C評価の店長の年額賃金は579万2000円であり,そのうち店長全体の10パーセントに当たるC評価の店長の年額賃金は,下位の職位であるファーストアシスタントマネージャーの平均年収より低額であるということになる。また,店長全体の40パーセントに当たるB評価の店長の年額賃金は,ファーストアシスタントマネージャーの平均年収を上回るものの,その差は年額で44万6943円にとどまっている(なお,被告の主張によると,店長の年額賃金には深夜割増賃金相当額(定額)として16万8000円(月額1万4000円×12)が含まれていることになるが(就業規則15条),後記のファーストアシスタントマネージャーの月平均時間外労働時間に照らすと,深夜労働に対する賃金を除いた比較では,その差はより少額になるものと推認される)。
 また,証拠(甲54)によると,店長の週40時間を超える労働時間は,月平均39.28時間であり,ファーストアシスタントマネージャーの月平均38.65時間を超えていることが認められるところ,店長のかかる勤務実態を併せ考慮すると,上記検討した店長の賃金は,労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては,十分であるといい難い。
 (イ) また,被告では,前記第3,2(2)カ(イ)で認定した各種インセンティブプランが設けられているが,これは一定の業績を達成したことを条件として支給されるものであるし(したがって,全ての店長に支給されるものではない),インセンティブプランの多くは,店長だけでなく,店舗の他の従業員もインセンティブ支給の対象としているのであるから,これらのインセンティブプランが設けられていることは,店長を管理監督者として扱い,労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除していることの代償措置として重視することはできない。
 (ウ) なお,仮に,前記(ア)で検討した店長の平均年収が,上記のインセンティブプランに基づき支給されたインセンティブを含むものであれば,被告における店長の賃金が管理監督者に対する待遇として不十分であることは,一層明らかであるといえる。
 エ 以上によれば,被告における店長は,その職務の内容,権限及び責任の観点からしても,その待遇の観点からしても,管理監督者に当たるとは認められない。
 したがって,原告に対しては,時間外労働や休日労働に対する割増賃金が支払われるべきである。
 3 争点(3)(仮に,争点(2)が否定された場合,原告に支払われるべき時間外割増賃金及び休日割増賃金の金額はいくらか)について
  (1) 被告が管理している勤務表(甲4,乙3,4)及び原告が作成した出退社時刻・時間外勤務一覧表(甲3)によれば,平成15年12月から平成17年11月までの原告の出社時刻,退社時刻及び休憩時間は,いずれも,別紙勤務状況一覧表(認定)の「出社1」,「出社2」,「退社1」,「退社2」及び「休憩」欄記載のとおりであると認められ,これらの出社時刻等からすると,上記期間中の原告の1日の労働時間とそのうち1日の法定労働時間である8時間を超過する労働時間は,それぞれ,同表「労働時間」欄,「8時間超」欄記載のとおりであると認められる。
  (2) ところで,原告は,1週40時間を超える労働時間(1日8時間を超える労働時間として既に別紙勤務状況一覧表(請求)の「8時間超」欄に計上した時間数は除く)は,同表「40時間超」欄記載のとおりであると主張し,そのうち,週の途中で月が替わる場合(平成15年12月,平成16年2月,同年3月,同年4月,同年5月,同年6月,同年8月,同年9月,同年10月,同年11月,同年12月,平成17年1月,同年2月,同年3月,同年5月,同年6月,同年8月,同年10月及び同年11月と各翌月との関係)は,月替わりの前後で週40時間を超える労働時間を割合的に算出して計上している(例えば,平成15年12月28日(日)から31日(水)までの期間についてみると,4日間の労働時間の合計39時間20分から,上記期間の週法定労働時間として算出した22時間51分(40時間×4/7)を控除し,さらに,1日8時間を超える労働時間として既に同表「8時間超」欄に計上した時間数(合計15時間20分)を控除した,1時間9分を上記期間の週法定労働時間を超過する労働時間数であるとしている)。
 しかしながら,労働基準法32条1項は,日曜から土曜までの暦週において,その労働時間を合計40時間に制限したものであるから,その違反の有無は,月替わりの前後で割合的に判断するのではなく,当該週の全体を通じて判断するのが相当である。
 以上の観点から整理すると,週の途中で月が替わった場合の週40時間を超える労働時間数(1日8時間を超える部分として既に別紙勤務状況一覧表(認定)の「8時間超」欄に計上した時間を除く)は,同表「40時間超」欄記載のとおりであると認められる。
  (3) 次に,就業規則上,店長の休日を特定する規定はないが,使用者は,労働者に対し,毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないから(労働基準法35条1項),別紙勤務状況一覧法(認定)のうち,日曜から土曜までの暦週において,1回も休日が与えられていない場合には,原告の主張のとおり,その最終日である土曜日の勤務を休日労働として認めるのが相当である(なお,原告は,平成16年11月28日から12月4日までの週については,1回の休日もないのに,その最終日である12月4日を休日労働として請求していないので,当裁判所の認定上も,同日の勤務は,休日労働として扱わないこととする)。
  (4) 以上に認定した時間外労働時間及び休日労働時間に,①平成15年12月から平成16年3月までの時間外労働割増賃金の時間単価2748円,分単価45円,休日労働割増賃金の時間単価2968円,分単価49円,②平成16年4月から平成17年3月までの時間外労働割増賃金の時間単価3070円,分単価51円,休日労働割増賃金の時間単価3315円,分単価55円,③平成17年4月から同年11月までの時間外労働割増賃金の時間単価2612円,分単価43円,休日労働割増賃金の時間単価2821円,分単価47円(上記の各時間単価等は,原告が主張する金額であるところ,仮に,原告に時間外割増賃金等が生じるとした場合,その時間単価等が少なくとも原告が主張する金額となることについては,当事者間に争いはない)をそれぞれ乗じた額が,原告に支払われるべき時間外割増賃金及び休日割増賃金となる。
 ただし,被告の給与規定では,給与の計算期間は当月1日から末日までとされ,当月25日にこれを支給すると規定されているが(同規定10条,時間外割増賃金等の支給日に関する格別の規定はない),実際には,当月25日以降の時間外割増賃金等を同日までに支払うことは不可能であるし,そもそも時間外労働等が実際に行われる前にその賃金を請求することはできないのが原則であるから(民法624条),当月25日以降の時間外割増賃金等の支払日を当月25日とすることはできず,社会通念上,その支払日は翌月25日とするのが相当である。
 以上によれば,原告に対する各月の時間外割増賃金及び休日割増賃金の額及びその支払日は,別紙時間外及び休日割増賃金一覧表記載のとおりであると認められる。
 4 争点(4)(時間外割増賃金及び休日割増賃金に係る付加金の要否及びその額)について
 以上のとおり,被告は,原告に対して,労働基準法37条の定める時間外割増賃金及び休日割増賃金の支払義務を負っていながら,その支払を怠っているものであるが,原告の基準給には,深夜割増賃金として支払われる部分が含まれていると認められるところ(就業規則15条),当裁判所が認定した時間外割増賃金等は,原告の基準給をそのまま算定の基礎としたため,その分高額なものとなっていることや,前記第3,2(3)イ(ア)記載のとおり,店長である原告の勤務には,労働時間の自由裁量性があったとはいえないが,シフトマネージャーとして勤務するなどして労働時間が長期化した点に関しては,原告が店長としてどれだけのスウィングマネージャーを育成,確保できていたかという個別的な事情も影響するのであり,実際,原告の時間外労働時間は,店長の平均的な時間外労働時間(39.28時間,甲54)を上回っていることが多いことなどを考慮すると,被告に対しては,上記認定した時間外割増賃金及び休日割増賃金の合計額の5割である251万7493円の付加金の支払を命ずるのが相当である。
 5 争点(5)(原告の時間外労働に関し,被告の不法行為の成否及びその損害額)について
 労働基準法36条の要件を満たすことなく行われた違法な時間外労働に対しても,使用者は,労働者に対し,当然に割増賃金の支払義務を負うものと解され,また,その支払を怠った使用者に対しては,労働者の請求により,付加金の支払が義務づけられる場合もあるが(同法114条),時間外割増賃金を支払わないまま時間外労働をさせたということから,使用者が,労働者に対し,直ちに不法行為責任まで負うと認めるべき理由はない。
 また,本件で,被告が,原告に対し,労働基準法に違法した長時間労働を強いたと認めるに足る証拠はないし,他に被告に不法行為責任を生じさせるような具体的な事実の主張,立証もない。
 さらに,時間外割増賃金等が支払われないまま店長として長時間労働をしていたことによる原告の精神的苦痛は,上記の時間外割増賃金等や付加金が支払われることで,慰謝されるべき性質のものであるともいえる。
 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
 6 争点(6)(原告が通勤に使用した高速道路料金に関する被告の支払義務の有無)について
 前記前提事実(6)記載のとおり,被告の車両管理規定では,社員等が所有する車両を業務の用に供した場合,有料道路料金についても,領収書を添付して申請すれば,その実費を支給するとの定めが設けられているところ(同規定1条,21条),証拠(乙26,27)及び弁論の全趣旨によれば,被告の実務上は,有料道路料金の支払を求める場合,予め自家用車両の業務利用届を提出したうえで,「有料道路の通行料金を申請します」との入力欄に「はい」と入力した通勤費支給申請書を提出する扱いとなっていることが認められる。
 しかるに,原告は,平成16年2月3日,被告に対し,通勤費支給申請書を提出し,通勤費の支給を申請していたが,その際,同申請書中の「有料道路の通行料金を申請します」との入力欄に「いいえ」と入力していたのであるから(乙27),被告の実務上の取扱いに即した高速道路料金の支給申請手続を行っていない。また,原告が,これ以外に,車両管理規定に即して,被告に対し,高速道路料金の領収書を添付してその支給申請を行った形跡も見当たらない。
 以上によれば,原告は,車両管理規定上あるいは被告の実務上必要とされる高速道路料金の支給申請を行っていないのであるから,被告に対し,その支払を求めることはできないというほかない。
 7 結論
 以上の次第であるから,原告の訴えのうち,請求の趣旨第1項に係る訴えは不適法であるから却下し,請求の趣旨第2項ないし第5項に係る訴えは,主文掲記の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。


 

 傍線は,弁護士若林がつけたものです。本ページは,当職が自己研鑽のために作成したものであり,内容の正確性については責任を負いかねます。引用の際には,必ず,原典にあたってください。

     


受任可能地域 大阪府内,兵庫県内,京都府内,奈良県内, 和歌山県内,滋賀県内にお住まいの皆様からのご依頼
 なお,上記以外の地域にお住まいの方でも,裁判所出廷ごとの日当及び交通費をご負担いただける場合には受任可能な場合もございます。→詳しくはこちら

大阪近辺で不当解雇・残業代未払いにお困りの方は
大阪の弁護士 若林・新井総合法律事務所 にご相談ください。 大阪の弁護士。気軽に相談して下さい。
大阪府大阪市淀川区西三国3丁目11番17号 若林・新井総合法律事務所


解雇・残業代請求なら大阪の弁護士|若林・新井総合法律事務所 | 不当解雇 | 残業代請求 | その他労働問題 | 解決手段の比較 | 弁護士費用 | お問い合わせ | 事務所概要・アクセス | 弁護士紹介 | リンク | 解決事例 | 判例研究 | サイトマップ |


●当サイトへのリンクは自由にしていただいて構いません。報告不要です。ただし,当サイトのイメージが損なわれるような場合には,リンクをお断りする場合がありますのでご了承ください。

   Copyright(C)2010-2014 Wakabayashi&Arai. All Rights Reserved.